ひとりごと

ただの吐き出し場

6畳に満たない私の世界

声の小さく気弱そうな不動産屋さんの車に乗っていくつかの物件をまわる。

高校の卒業式も終わり地元の国公立の受験結果を待ったが結果は不合格。

大学入学まであと一ヶ月を切っているところで私はようやく一人暮らしの部屋を探し始めた。

母と私と、当時東京で暮らしていた姉と合流し3人で物件探しをした。

 

私の通う予定の大学と姉の通っている大学は同じ沿線上で、最初は2人で住む予定だったが私が一人暮らしをしたいと言った。姉はすでに一人暮らししてるのにずるい。

もともと私が上京するなんて思ってもみなかった母は反対した。

私が地元を離れること自体不服で、不安にしていた。

一人暮らししていいよと言ってくれたのは父だった。

父の出身大学も同じ沿線上で、私が住む予定の地域でかつて一人暮らしをしていたのだ。

「一人の苦労を知ってみたほうがいい」と笑いながら母と私に言った。

 

もう大学生向けの物件はかなり埋まっていた。

私が決めたのは駅もまあまあ近く、スーパーも徒歩1分の距離にある好立地な部屋だった。

ただ私は不満だった。

その部屋は6畳ない広さで、台所も人ひとりぎりぎりたてるくらい。

浴槽はあるけれど座るのは厳しい。

結局4年間浴槽にお湯をはることは一度もなくシャワーで過ごした。

換気扇を回しても湿気がこもり、定期的にカビと戦った。

ユニットバスで風呂の横はすぐトイレだし、トイレに座ってドアを閉めると膝がぶつかる。

大学生の一人暮らしなんだから、もっとおしゃれできれいな部屋でかわいい家具を置いて・・・なんてことはなかった。

 部屋は借りられたが、引っ越しは入学式には間に合わずしばらくは姉の家に居候していた。

 

とうとう完全に一人になる日。

両親が実家から車で神奈川まで来て、一緒に家電製品や家具を買った。

 

「じゃあね。がんばってね」

帰り際部屋の玄関で両親は何度も言った。

両親が私の部屋から出てドアを閉める。

足音が遠ざかるのを確認しながらそっと玄関のカギを閉め、私は玄関で泣き崩れた。

実家はそう遠くはない。電車で1時間とかからない場所には姉が住んでいる。

けれど、明日から部屋には一人だということがたまらなく悲しかった。

家族に反発することもあったが、頼りにし甘えてきたのだと分かった。

あの日の感情は今思い出しても泣けるほどに覚えているし、きっと忘れない。

 

最初は狭くて嫌いだった部屋だが今はあの狭さが少し恋しい。

狭く、たいして片付けもされていない部屋だったが

サークルの子数人と誕生日パーティーをしたり、学部の友達と徹夜でゲームをしたりした。

 

注意してドアをあけないと取れてしまうドアノブや

部屋のベランダから見えた一本の桜の木のことを時々思い出し

あの時の記憶を支えに生きていくのだろう。